クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの「リテール・マーケットビート2026年第3四半期」によると、消費環境の本格回復にはなお時間を要するものの、都心主要エリアにおける出店需要は堅調に推移している。表参道をはじめとする主要商業エリアでは、グローバル・ブランドによる旗艦店開設に加え、F&B(飲食)など多様な業態による出店が続いており、ブランドの世界観と街の個性を融合させた体験価値重視の店舗戦略が存在感を高めている。
マクロ環境:緩やかな景気回復下で、消費環境は力強さを欠く
民間調査機関による予測では、2026年第3四半期の実質GDPは前四半期比+0.1%(年率換算0.4%) と、前四半期に続いてプラス成長を維持し、景気は緩やかな回復を続けるとみられる 。コア消費者物価指数(生鮮食品を除く)は2026年8月時点で前年同月比+1.7%となった。政府による電気・ガス料金支援によりエネルギー価格が前年比マイナスに転じた他、食料品価格の上昇も鈍化し7カ月連続で前年比2%を下回っている。2026年8月の労働世帯実収入は、名目では前年同期比1.3%と増加した一方、実質では同0.9%減となり、前回レポートで取り上げたの5月の0.7%増からマイナスに転じた。実質収入は7月以降2カ月連続で前年を下回り、家庭の購買力は弱含んでいる。
小売販売額は2026年8月に前年同月比2.7%増となった。季節変動をならした3か月移動平均の指数は117.2(2020年=100)だが、前月比1.1%低下するなど足元の動きは弱く、経済産業省は小売業販売を「一進一退」と判断している。7~8月の訪日外客数は計654万人と前年同期比16.8%減少。前期同様、中国からの訪日客数が前年同期比約6割減少したことが全体を押し下げた。
国内景気は緩やかな回復基調にある一方、実質収入の減少により家計の購買力は弱く、小売消費の回復力は限定的である。インバウンドも中国からの訪日客減少が重石となり、小売市場は当面、緩やかな改善にとどまるとみられる。
ミクロ動向:ブランドとエリアの融合が生む、「ここでしかできない」店舗体験
今期は表参道で旗艦店オープンが相次いだ。8月にはlululemonが原宿駅近くの表参道沿いにグローバル旗艦店「ルルレモン原宿」を、Googleが東急プラザ表参道「オモカド」に米国外初となる旗艦店「Google Store表参道」をオープンした。
lululemonは2017年から日本で店舗展開を進め、日本をアジア太平洋地域における主要マーケットの一つと位置付け、出店計画を強化している。「ルルレモン原宿」では日本を拠点に活躍するアーティスト3人が明治神宮、代々木公園、原宿から着想を得たアートワークを展示。街の個性とブランドの世界観を融合させ、グローバル旗艦店としてブランドを発信する場としている。Googleは日本進出25周年を機に、ファッション、カルチャー、テクノロジーが交差するエリア特性を活かし、米国外初となる旗艦店をオープン。日本におけるブランド体験の拠点として、最新デバイスに加え、GoogleのAIを体験できるPixel Studioも設けている。また、国内外で事業を拡大し、高成長を続けるHUMAN MADEも、9月に初の旗艦店「HUMAN MADE TOKYO」をオープン。ブランドのルーツと深く結びつくエリアで、新たな旗艦拠点を展開している。また、こうしたエリアの個性を店舗体験に取り込む動きは、旗艦店に限らない。9月に開業したTOFROM YAESUでは、飲食店を中心に据えながら、八重洲で長く親しまれてきた老舗と新たな人気店を組み合わせ、街の歴史や路地裏文化を現代的に再編集している。
各社に共通するのは、ブランドや施設の世界観とエリアならではのカルチャーや個性を結び付けている点だ。単なる大型店やワーカー向けの飲食店の集積ではなく、ブランド・施設と街の個性の融合を生かした「この場所を訪れる理由」そのものをつくる店舗・施設戦略が際立っている。
リテール・マーケットビート 2026年第3四半期 詳細はPDFレポートをご参照ください。