需要:中国の政策リスクは増大、2023年にかけて、さらなるサプライチェーンの混乱が継続していく可能性も
日本経済の先行きについては、インフレの高まり、通貨安、対ロシア制裁の高まりなどから下振れし、2022年の実質GDP成長率は1.8%、2023年の実質GDP成長率は1.2%と再度の下方修正となった。コロナウイルス感染の波は2022年第3四半期までに一旦抑制されると予測されているが、中国の厳格な行動規制は、世界的なサプライチェーンの根詰まりの解消を2023年以降まで先送りさせてしまう可能性が高い。物流セクターに対する物価上昇の影響をみると、貨物価格1が前年同期比5.3%増、特に国際海運が同67%増、航空貨物が同85%増となった。また、輸出2は前年同期比8.8%増となったものの、通貨安や石油価格の高騰により輸入が前年同期比24.1%増となり相殺された格好となった。企業収益も、2023年3月期に経常利益(会社予想) が前期比20%減3となるなど同様に悪化するとみられる。総じてみると、消費者需要のリバウンド増も企業需要の低迷により相殺され、少なくとも2023年上半期までは物流量全体は横ばいで推移するであろう。とはいえ、一人当たりでみれば、日本の先進的物流施設ストックはまだまだ少なく、より多くの消費者がより広範な商品カテゴリーにおけるオンライン・ショッピングに移行するなか、将来の大型マルチテナント施設(LMT) の需要も下支えされていく見通し。
供給:一人当たりでみれば、名古屋の先進的物流施設ストックは極めて小さく、中長期的な過剰供給の懸念は行き過ぎ
人口一人当たりでみると、名古屋市の先進的物流施設ストックの規模は極めて小さい。LMTを先進的物流施設と仮定すると、名古屋の先進的物流施設の全体に占める比率は、東京(15%)、大阪(8.6%)を下回る、6%未満に留まっている。2022年上半期の動きをみると、名古屋では既存ストックの87%に相当する約310,200平方メートル超の過去最大の供給がなされた。さらに、名古屋と神戸を結ぶ新名神高速道路フル開通により、今後2年間で8棟、合計約524,000平方メートルの竣工が見込まれている。こうした大量供給の影響により、今後2年間で空室率が15%前後まで上昇する可能性もあるものの、2024年以降までみれば、大手EC事業者のテナント需要などにいずれ吸収されていく可能性が高い。その他の動きとしては、アマゾンがデリバリーステーションを年内に18カ所新設、全国で合計45カ所へ拡大と発表した。米国アマゾンでは、フルフィルメント・センター以外の保管施設は自社ストック全体の約45%を占めており、同日配送に必要な配送拠点への需要も今後増加する見通し。都市別空室率の動きを概観すると、首都圏はボトムからは倍増したとはいえ約4%程度、大阪圏では約2.1%と、低位安定を維持した。
プライシング:世界の主要都市対比で日本の物流セクターに対するリスク・スプレッドは割高なまま
過去1年間、日本の物流セクター全般に対する10年国債金利対比でのリスク・スプレッド(利回り格差) はほぼ変わらず。前年同期比で比較すると、シンガポール(506bp/368bp)、オーストラリア(388bp/98bp)、韓国(257bp/ 89bp) 、香港(228bp/ 37bp)4など、大幅にタイトニングした他の先進国とは対照的な市場動向となっている。金利変動が激しい環境下において、単純な比較は難しいものの、米国の都市別動向をみても、需要過多が顕著な沿岸部都市を中心に同リスク・スプレッドはさらに縮小している。他の先進国と足並みを合わせた物流網の近代化が進む中、日本の物流セクターに対するリスク・スプレッドもさらに縮小していくものと予想される。
1 企業向けサービス価格指数 External Link、日本銀行
2 経済産業省
3 法人企業統計調査、財務省
4 RCA/MSCI 2022年8月8日現在
5 調査対象は延床15,000坪以上のマルチテナント型大型物流施設。
調査対象:15,000坪以上のマルチテナント型大型物流施設(LMT) 。名古屋・福岡は5,000坪以上の施設が対象。
注記のないものにつき、データはすべて2022年6月末付け。