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COVID-19 OUTBREAK: コロナウイルス流行がアジア太平洋地域の不動産市場へ与える影響

Hideaki Suzuki • 21/02/2020

covid 19 outbreak impact of coronavirus epidemic on apac real estate market

クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドは新型コロナウイルス「COVID-19」の不動産市場への潜在的な影響についてレポート「COVID-19:コロナウイルス流行がアジア太平洋地域の不動産市場へ与える影響(英語版のみ)」を発行致しました。以下は同レポートの抜粋ですが、より詳細なマクロ的分析や国別分析は、本レポートをご覧ください

要 点

  • ウイルス流行が経済に与える影響の深刻度とその期間にはアジア太平洋地域の各都市によって異なることが予想されますが、多くのエコノミストの見解は世界経済への影響は免れないということです。
  • 中国の国内消費は小売業と観光業を通じて最も大きな打撃を受けると予想されます。
  • アジア太平洋地域への影響は、観光フローの減少と中国本土のサプライチェーンの混乱が主な原因となります。
  • COVID-19の拡大に対処する中国政府の強力な対応は、最近の経済への1.7兆人民元の注入やその他の可能な将来の措置を含め、中長期の市場の信頼を支えています。
  • 特に旅行、高級小売、レジャー、レストランなどの中国国内の小売支出は、短期的には弱まりますが、eコマースは後押しされる可能性があります。
  • 商業不動産(CRE)への主な影響は次のとおりです。
  1. 中国では少なくとも2020年第1四半期にリースおよび投資取引活動が減少しましたが、中期的には不動産投資活動が回復すると予想されます。
  2. 短期リースおよびコワーキングには即時の悪影響が懸念されます。
  3. 企業による迅速な対応は、SARS以来の事業継続計画(BCP)の強化が成功していたことを裏付けています。さらにCOVID-19流行を阻止するための在宅勤務が今後の職場環境の柔軟性向上を加速させる可能性もあります。
  4. アウトバウンド観光客数の減少は、アジア太平洋地域の多くで観光客の消費とホテルの稼働率に悪影響を及ぼすでしょう。
  5. 中国本土での操業停止と検疫、およびグローバル市場への部品供給困難による工業生産の妨げが予見されます。
  6. eコマースの増加が期待されることから物流セクターにとっては潜在的なメリットがあります。

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This Time is Different(前回のSARSとは異なる影響を与える見通し)

多くの人々は、SARS流行(2002年~2003年)の影響から、今回の新型コロナウイルスの発生による潜在的な影響を見出すことに努めています。しかし、17年前とは明らかに、中国は今日のグローバルおよびアジア太平洋市場において無視できないほどの大きな経済的影響力を持っています。2003年、中国は世界経済の4%を占めるのみでしたが、今日、その割合は約16%にまで伸びており、中国経済の混乱は世界的な影響を持つまでになりました。

中国国内における新型コロナウイルス流行の影響が明確です。湖北省とその周辺の発生源から、ひと気のない目抜き通りと、封鎖された街に留まる何百万人もの市民の静止した日常のイメージがあふれています。すべての地域でウイルスが蔓延しているため、緩和策による封じ込めの対価として、国全体の経済活動と生産性の低下を招いています。交通機関が削減または停止され、在宅勤務の指示が出され、飲食店や映画館が閉鎖、他の小売業者はみな営業時間を短縮するか、店舗の一時的な閉鎖を余儀なくされています。

アジア太平洋地域では、全ての産業で負担を強いられている甚大な人件費は別として、観光市場およびリテール市場は、短期的であり深刻な損害を受けるリスクが最も高くなっています。中国本土からのインバウンド観光客は過去17年間で指数関数的に増加しており、現在の移動制限は、アジア太平洋地域の路面通りに打撃を与えています。

中国本土からの観光客は、数と支出額の両方で最大であったため、現在アジア太平洋地域のホテル部門は苦境に立たされています。同業界は過去のSARS流行が与えた観光業界への影響から教訓を学んではいたものの、近年の中国からの観光客の急速な増加により、顧客戦略は中国人観光客を中心に据えたものとなっていました。いまはその過度な依存が逆風となり、今後の戦略見直しの転換点となる可能性があります。アジア太平洋地域の各観光地において、過去17年間における多くのホテルのストック量増加を考慮すると、RevPAR(販売可能客室数あたりの客室売上)は値下がり、この損実幅はSARS流行時を大きく上回ることが容易に予想されます。

新型コロナウイルスの流行が和らぐまで、アジア太平洋地域全体でリテールおよびホスピタリティセクターの投資活動も減速することが予想されます。一方で、最近の豊富な不動産投資のドライパウダー(投資家の投資余力)と、そして現在活動しているオポチュニスティック型投資家の勢いを考慮すると、同セクターでの大幅な価格下落は考えづらいでしょう。

新型コロナウイルスの流行は、アジア太平洋地域の不動産市場の予測不能な「ブラック・スワン型イベント」であると主張する方もいるでしょう。ただしこれは、企業や従業員が危機対応にたいして著しく準備不足だったSARS流動時のほうが、よりブラック・スワン的状況であったと表現すべきでしょう。SARSから学んだ教訓は、企業の事業継続計画(BCP)の取り組みの一環としてバックアップ計画とリモートワークを取り入れ、リスク管理を強化することに既に繋がっていました。

今日、先進的な企業は、ミレニアル世代およびZ世代といった若い働き手を惹きつけるために、従業員の職場満足度向上のため、柔軟な働き方や在宅勤務を取り入れることの重要性を認識してきました。また、過去10年間におけるオフィス業務のデジタル化もこれに貢献してきたと言えるでしょう。

新型コロナウイルスの流行に直面したアジア太平洋の企業は、ビジネス環境の安定化のためにタイムリーな意思決定と、非常に流動的な状況の綿密な監視によって、迅速なBCPを実行に移しています。

オフィス市場への影響は限定的と考えられますが、コワーキングスペースやサテライトオフィスを含む短期的オフィスリース契約は即時的な悪影響を受けることが予想されます。これは、コワーキングスペースやサテライトオフィスの付加価値とする人々との交流が現在懸念される状況下にあることに加え、経済活動の調整期には短期リースが提供する契約の柔軟性をテナント企業が行使される可能性が高いためです。しかし、これは短期的な影響であり、コワーキングスペースやサテライトオフィスが提案する柔軟なワークプレイスは長期的に支持されるでしょう。

日本の不動産市場への影響

日本においても消費財のサプライチェーンは既に影響を受けており、引き続き取引実績が悪化する可能性があります。他のグローバル企業と同様に、日本の小売業者は中国の店舗を一時的に閉鎖しており、中国の旧正月期間中の訪日客の減少により、日本経済に直接被害を与えています。日本は様々な問題に直面しており、不動産の観点からはさまざまなセクターに影響がみられます。

ホテル市場

ホテル部門は日本の不動産市場で最も影響を受けるでしょう。インバウンド観光市場は、日本国の観光政策の下で成長しており、宿泊施設の建築着工総延床面積は2011年から2018年にかけて5倍に増加していました。多い新規供給のなかにあっても、インバウンド観光客数の急速な拡大に支えられて、稼働率は高い水準を維持してきました。しかし、国内にとってプラスに作用した分マイナスへの振れ幅も大きいことが予想されます。コロナウイルスの流行が続くにつれて状況は一刻一刻変化しており、政府の観光目標も既に大きな課題に直面しています。

訪日外国人全体の約30%を中国からの旅行者が占めているなかで、旧正月旅行シーズンの初めに団体国際旅行が中国政府によって禁止されました。2019年における日本への中国人観光客の約26%がグループツアー客でした。3月末までに中国からの観光客が26%減少し、他のアジア諸国からの観光客が2%減少すると仮定すると、訪日外客数は48万9千人減となります。ウイルスの拡散を速やかに確認できないと仮定した場合、3月末までに中国からの観光客は半減、他のアジア諸国は10%減、非アジア諸国から5%減となります。このシナリオでは、訪日外客数は120万人減となります。ワースト・シナリオは、この影響が5月末まで続くと仮定した場合ですが、その場合には訪日外客数は290万人減となります。これらのシナリオは、日本国内での新型コロナウイルスの局所的発生の可能性は考慮しておらず、状況によっては被害がこれらを超える可能性もあります。

2020年に訪日外客数4,000万人を目指す政府の目標は、現在非常に厳しいものとなりました。訪日外客数は2019年には既に減速しており、2番目に多い韓国からの旅行者数は、日韓貿易紛争の影響により25%急落しました。現在、2019年の訪日外客数と、2020年の目標値との800万人の差は、新型コロナウイルスの発生によりさらに拡大しています。投資家が市場をより明確に把握できるようになるまで、ホテルやホテル開発プロジェクトへの不動産投資活動が減速することでしょう。

日本へのインバウンド観光客数(2019年)

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日本への観光客数(2011年 – 2019年)+ 目標(2020年)

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さまざまなシナリオでのインバウンド観光客の減少

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リテール市場

小売業界も、新型コロナウイルス流行の影響を避けられません。中国からの旅行者は、2019年の全観光客グループの中で最大の消費を行っており、暫定的な数値では1.8兆円、総観光支出の37%を占めています。中国人観光客のショッピングの平均支出は、1人あたり10万円を超え、全体平均の2倍をわずかに上回っています。したがって、中国人観光客数の減少は、特にデパートや主要な路面通りのリテール部門に大きな影響を与えます(対照的に、韓国人観光客のショッピングの平均支出は下位となっています)。

中国からの団体旅行の禁止は、旧正月シーズンでの業績回復を目指していた小売業者に大きな打撃を与えています。消費税増税により小売売上高は前年より減少しており、昨年記録的な高値に達した訪日観光客による支出に期待を抱いていたリテール部門にとって、中国による海外への団体旅行の禁止は非常に残念な結果といえるでしょう。一部のデパートでは、既に旧正月シーズンにおける売上の減少があったことを明らかにしています。

観光地に関して言えば、大阪はここ数年でブームになっていました。「Shoppers Paradise(=買い物客のパラダイス)」として広く知られる心斎橋エリアは、おそらく最大のメリットを享受してきました。訪日外客数の急速な増加と、観光客がもたらす旅行支出の高さより、路面通りの小売店舗の収益性が向上し、エリア全体で店舗スペースの需要が大幅に増加しました。実際に、アジアの旅行者、特に中国からの旅行者による日本の医薬品や化粧品、美容品への需要により、ドラッグストアは大きく店舗需要をけん引してきました。

ただし、新型コロナウイルスが流行する中で、マスク、消毒剤、特定の医薬品が大量に購入され品切れとなっている一方で、今年は高額の支出を行う観光客がいないため、ドラッグストアの売り上げは減少しています。新型コロナウイルスの流行が継続する場合、リテール不動産市場は弱含みを経験すると予想されます。

インバウンド観光支出 

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国別の観光客の平均ショッピング支出

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オフィス

オフィスセクターへの影響は限定的です。しかし、このウイルス流行が、夏季オリンピックに先立つかたちで、日本国の働き方改革の加速に貢献しています。柔軟な働き方の促進はアベノミクスの政策に含まれており、2018年に過剰な労働時間の削減と働き方の柔軟化と多様化を目的とした法律が可決されました。フレックスタイムと在宅勤務はこれらの改革のいくつかの例であり、一部の企業は特定の地域内での流行に対する予防措置として実施しています。この政策に加え、現在見られるような在宅勤務導入が円滑に進めば、これらの一時的な措置は恒久的な文化になり、日本での働き方の変化をけん引する可能性があるでしょう。グローバル企業も、過去のSARS / MERS流行の経験に基づいて、従業員保護の観点から今回の流行に迅速に対応しており、過去のレッスンが活かされていることの証明となっています。

より詳細なマクロ的分析や国別分析は、本レポートをご覧ください