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アジア太平洋地域における路面店賃料ランキング

Hideaki Suzuki • 19/05/2021

この記事は株式会社不動産経済研究所発行「不動産経済® Focus & Research」 1324号(2021年5月19日)に掲載されたものです。

 

アジア太平洋地域の路面店市場における2020年の賃料データが出揃い、新型コロナウイルス感染拡大がリテール不動産へ与えた影響が明るみとなった。当社クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドは、同地域内124か所の路面店市場における賃料動向レポート「アジア太平洋のメインストリート」を公表した。その結果、昨年1年間を通じてアジア太平洋地域の路面店舗3分の2が賃料下落に見舞われ、国境閉鎖、インバウンド需要の消失、都市封鎖、在宅勤務、コロナ不況などパンデミックの普遍的な影響が観測された。

アジア太平洋地域の賃料ランキングは、上位10都市の順位にほとんど変化は見られず、香港、東京、シドニー、ソウル、大阪が上位を維持したものの、多くの市場で賃料下落が顕著であった。中でも香港のコーズウェイベイでは43%と大幅な下落を示した。中国本土では平均賃料の下落率が5%と、アジア太平洋地域内で影響が最も限定的であったが、都市でみると深センの羅湖地区で5%上昇する一方、北京の中央ビジネス地区(CBD)では14%下落した。ランキング上位3位は昨年と変わらず香港、東京、シドニーが維持した。

 

2020年第4四半期の賃料(米ドル/平方フット/年)でランキングした市場別の最も高価な店舗地区

順位

2020

順位

2019

都市

ロケーション

米ドル/平方フット/

万円/坪/月

1

1

香港

尖沙咀(チムサーチョイ)

$1,607

50.0

2

2

東京

銀座

$1,223

38.0

3

3

シドニー

ピットストリートモール

$974

30.3

4

5

ソウル

明洞(ミョンドン)

$930

28.9

5

4

大阪

心斎橋筋・御堂筋

$805

25.0

6

6

上海

南京西路

$600

18.7

7

7

北京

CBD

$500

15.6

8

8

南京

新街口(シンジコウ)

$470

14.6

9

9

メルボルン

バークストリート

$422

13.1

10

10

シンガポール

オーチャードロード

$421

13.0

 *1 USD = 約105円

 

同レポートではいくつかの傾向が示されている。まずローカリズムの台頭である。パンデミックを乗り切るため、買い物客は地元企業を支持していた。Rakuten Adverising社が8,000人の消費者を対象に実施した2020年のグローバル調査では、50%の世帯が「地元企業からの購入が増えた」と回答している。またアジア太平洋地域の消費者は、海外でのオンライン購入を避け、国内でお金を使う傾向にあった。次に、巣ごもり需要とeコマースの急成長である。ロックダウンや健康への懸念から消費者はデジタルプラットフォームを利用するようになったため、パンデミックによりオンラインショッピングは必然的に増加。従前よりデジタル化が進んでいたアジア太平洋地域でのeコマースの成長は驚くべきことではないものの、e-marketer社によると世界のeコマース総額3.9兆ドルのうちアジア太平洋地域は2.5兆ドルと64%のシェアを占める。

小売セクターにおいて、消費者の支出は短期的に二極化が鮮明になると予想されている。価値重視の概念は引き続き浸透し、高級小売業の回復は加速している。2008年の世界金融危機後、世界の高級品小売は12ヶ月から18ヶ月の間に回復。2020年の中国の状況はこの見解を裏付けるものであり、高級品セクターに楽観的な見方を与えるものと思われる。

Bain & Company社によると、パンデミックの影響を受け高級品購入におけるオンラインのシェアは、2019年の12%から2020年には23%になると報告している。しかしこれが一時的な変化なのか定着していくものになるかを判断するには時期尚早ともいえる。高級品購入の際、消費者は高品質なサービスに魅力を感じ店舗での購入を好むのが一般的だが、マーケティング戦略としてのオムニチャネルの主流化は、今後高級品セクターを進化させるだろう。

国内の百貨店ではコロナ禍で業績悪化が加速するなか、国内富裕層向けラグジュアリーブランドや時計・宝飾品等の高額商品の好調が下支えとなっている。全世帯を定期収入別で5等分した5分位階級別の1月の消費支出は、全ての階級で前年同月マイナスとなったものの、最も収入の高い階級が比較的低い減少幅に留まり、12月はこの階級のみが前年同月を上回った。個人消費は高所得層に支えられている事が確認できる。2020年Q4のラグジュアリーブランドにおける売上高(前年同期比)は現地通貨ベースでエルメスが15.6%増加、LVMHは同3%減もファッション・レザーグッズのセグメントで同18%増加、1月にLVMHの傘下となったティファニーはホリデーシーズンにおける売り上げが過去最高となった。他、グッチを傘下に持つケリングは同5%減、バーバリーは同9%減、プラダは同6%減に留まっている。またラグジュアリーブランド各社はグローバルで値上げを実施しており、利益率を押し上げている。2021年第1四半期は国内で、これら好調なラグジュアリーブランドの出店も多くみられ、エルメス表参道店、ルイヴィトン銀座並木通り店、バーバリー六本木、グッチ名古屋旗艦店などがオープンした。他方、コロナ禍でアパレルブランドは路面店撤退を加速させている。オンラインに販路を伸ばすべく物流施設ニーズを増加させるなど、異なる業態が不動産のセクターを超えた床需要を顕在化させている。パンデミックは東京五輪開催を困難とさせているが、それでもアジア太平洋地域における「ショールーム」としての東京の重要性は大きく変わっていない。

今後10年間で、アジア太平洋地域の経済は引き続き世界の他の地域を上回り、そのシェアは36%から40%に拡大する事が見込まれる。また同10年間で、中間層の人口は15億人以上増加すると予測されている事に加え、アジア太平洋地域の多くの市場においていえる事であるが、特に東南アジアは店舗の床面積需要に十分な供給が追い付いていない。これはコロナの影響を受けた状況を超えた好機を示唆している。コロナ禍での懸念や困難へ焦点が当たってしまうものの、長期的なチャンスへも目を向けていくべきときかもしれない